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三菱地所株式会社様 EAT&LEAD 「食のフィールドワーク」レポート1日目・松野町編
2024.08.01三菱地所株式会社の食のプロジェクト「EAT&LEAD」の取り組みの一つ「食のフィールドワーク」の愛媛版を企画・コーディネートさせていただいました。丸の内をはじめ都内で活躍するシェフたちと日本各地をめぐり、その土地に眠る食の宝を掘り起こすプロジェクトです。
- Client
- 三菱地所株式会社 EAT&LEAD
- Delivered
- Coordination / Graphic / Report(Writing/Photos)
「美味しさの本質」ってなんだろう…
その答えは産地(ローカル)にありました。
都心を飛び出し、シェフと巡った3日間。
〜風景・人・想いを感じる、EAT&LEAD食のチーム〜
1日目・松野町編
一人ひとりが「食」と向き合い、真に食べる楽しみを知るために必要なことはなんでしょうか?
「EAT&LEAD」として再始動して、約1年。その答えは産地にあるのでは…そう感じた私たちは、4名のシェフとともに産地を巡るフィールドワークを行いました。
ツアーの最終日には、今回のフィールドワークで出会った食材をシェフが即興でコースに仕立て、生産者の方々と共にいただきます。
私たちの身体を構成する「食」がどのように生まれ、どのように育てられているのか。
全国各地の生産者と深くつながり、その魅力を丁寧に伝える食の探求者であり、
伝道師であるシェフとのフィールドワークは、私たち消費者はもちろん、
産地の人たちにも新しい視点を与えてくれるはずです。
今回の旅先
愛媛県 北宇和郡松野町・西予市
一緒に巡ったシェフの皆さん
・アンティカ・オステリア・デル・ポンテ ステファノ ダル モーロさん
・FARO 加藤 峰子さん
・Cheval de Hyotan 川副 藍さん
・PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO 岩澤 正和さん
フィールドワークの舞台は四国・愛媛県。
今回は南予地方にある松野町と西予市を訪れました。
【 1日目 】
愛媛県北宇和郡・松野町は、四万十川の支流の一つである広見川の中流域に位置し、森林が全面積84%を占めているまさに“森の国”。
この地域では、平成20年頃から野生のニホンジカが爆発的に増えはじめ、農作物を食い荒らすなど被害が年々大きくなっていました。このため、町内ふたつの猟友会をはじめ、農業関係者、地域住民、行政が一体となって、鳥獣被害防止対策の専門組織「NPO法人 森の息吹」を設立。
一行は、その拠点となる工場を訪れました。
「森の息吹」では、シカの数をコントロールするための駆除や、田畑への侵入を防ぐための金網柵の設置などの活動を実施。それと同時に、人間の都合で奪ったシカの命を無駄にはできないとの思いから、駆除したシカの肉を「まつのジビエ」というブランドで生産、販売する獣肉処理加工施設も運営しています。
「実は、ここに運び込まれてきた鹿がすべて精肉として扱われるわけではありません。痩せ細っている個体はもちろんですが、肉付きが正常でないものは、病気やウイルスに感染している可能性が高いため、解体せずに処分することも多いです」そう話すのは、施設長の森下孔明さん。鹿1頭のうち、食肉として加工できる部分はなんと全体の35%だと言います。
猟友会により捕獲・処理された後すぐに運ばれてきた鹿は、厳しいチェックの後、すぐさま解体。約100項目にも及ぶ厳密なガイドラインに沿って処理し、安全性のしっかりした美味しいジビエを提供しています。
畜産肉とは異なり、トレーサビリティがなかなか難しいジビエにおいては、加工する森下さんたちの目と腕が重要です。
解体中はもちろん、真空パックする際、冷凍など全てのステップにおいて、細かくチェック。しっかりと処理に手間をかけているため、おいしさは言わずもがな料理の際に取り扱いやすいと、東京大阪を中心とした飲食店から高い評価を得ています。
するすると流れるように、そして丁寧に解体を進めながら、「僕たちはあくまでも肉屋。良いものを出し続けることを一番意識しています。私たちは人間が住みやすい環境を維持するために野生動物の命をいただいている。おいしく食べることが、自分たちにできる最大限の敬意だと思っています」と森下さん。
いただいた命を、余すことなく、美味しくいただく。
命への敬意を表す “美味しさ”について考えさせられる時間でした。
続いて訪れたのは、町の集会場。
地元農家のお母さんたちが、地元食材をたっぷり使った郷土料理で、もてなしてくれました。テーブルに所狭しに乗せられたお料理の数々に、メンバーからも歓声が沸きます。
「これはうちでとれた椎茸と切り干し大根を甘辛く炊いたやつ。こっちはお芋さんを煮っころがして味噌だれで絡めたの。ちらし寿司はベーシックなものと、自家製のお漬物を混ぜ込んだ変わり種ね!」。「どれも近くで採れた食材ばかりでつくりました。たくさんあるので、お腹いっぱい食べっていってくださいね」そう、ニコニコと笑顔で説明してくださったのは、松野町目黒地区で農家をされている武本民子さんと毛利真由美さん、松野町副町長の八十島温夫さんだ。
「これ美味しいな〜。何で味付けしているんですか?」「こういうのがしみじみ美味しいんだよなぁ〜」とシェフも一口箸を運ぶほどに、味付けや食材について話を聞きます。
半径10キロ圏内の、自分が、知人が、町の人がつくった食材を、地場で美味しくいただく。トレーサビリティを地でいく食事は、なんとも贅沢で格別。
食後は武本さん宅のムロ(食料庫)を見学させていただきました。
1・2月は雪が降ることも多い松野町。暖かいうちに収穫したお野菜は、食べられる分以外は天気のいい日に干して干物にしてムロに保管しているそう。大根は傷む前に切り干し大根に。椎茸も干して保管しておけば、お出汁はもちろん、旨みたっぷりの煮物にもすぐ使える。
毛利さんのムロにはそのほか、らっきょうや梅干しなどの瓶詰めがずらり。
新鮮なものは生でいただいたり、少しとうがたったものは煮物や汁物にしたり。それでも食べきれ無さそうなものは乾物にして保管し、冬の間はその食材を少しずついただく。
日本の食品ロス量は年間522万トン。そのうち、一般家庭から出されている量は247万トンと言われています。地域の食材を大切に食べつなぐ武本さんの暮らしは、この先の持続可能な社会づくりに必要な知恵なのではないでしょうか。
続いて、一行が訪れたのは毛利伸彦さん・真由美ご夫妻が営む「のぶりん農園」。
四万十川の源流の一つである目黒川のすぐそばで、目黒米や野菜、ハーブなどを無農薬で育てています。
2018年の西日本豪雨災害で職場が被災をしたことをきっかけに就農。未来の子供達に美しい地球環境を残したい。そして健康で元気でいられる食べ物を引き継いで行きたいとの思いで、農業に取り組んでらっしゃいます。
「そっちにあるのは高菜、奥にあるのは春菊で、手前にあるのはカブね。そっちのギザギザした葉っぱはわさび菜。ピリッとしていて美味しいよ」と毛利さん。
シェフもその場で味見をしたり、匂いを嗅いだりと、思い思いに園内の食材を見てまわります。
四万十川の源流の一つである目黒川は、国立公園内のブナの原生林から流れ込む水からなる清流。毛利さんの農園ではそのお水を使ってお米や野菜を育てています。
訪れた11月はちょうど葉物野菜とカブの収穫期。
フィールドワークの最終日に作るスペシャルコース用に、いくつかお野菜を収穫させていただきました。
園内に植っている柚子ももちろん無農薬。FARO シェフパティシエの 加藤峰子さんも、「明日のコースのデザートに使いたい」と手を伸ばします。よくよく手元を見ると、実だけでなく葉っぱも収穫。「嗅いだらわかるよ」と手渡された葉っぱを嗅ぐと、爽やかな柚子の香りが…。
「ね、果実と同じような香りがするでしょ。葉っぱは干したらハーブティーにもなるし、お料理に入れてもスパイシーな香りがしていいですよ」と加藤さん。
みんなで柚子を採っている足元で、「確かここら辺に…」とゴソゴソ養生シートをめくる毛利さんと岩澤シェフ。土の中から掘り出したのは、お茶の原材料としてよく知られる「どくだみ」の“根っこ”の部分。
「これこれ! 独特の土っぽい香りと苦味があって炒め料理とかにすると美味しいよ」と岩澤シェフ。私たち一般消費者からすると、ただの葉っぱや雑草の根っこにしか見えないものも、シェフのフィルターを通すと、貴重な食材だ。
園内を歩いていると、ありとあらゆるところに野草が生えていて、一行の足もついつい止まります。生垣のそばに生えていたのは、シソ科の植物の「カキドオシ」。こちらも気を抜いていると通り過ぎてしまいそうな野草です。「お肉料理のソースに良さそう」とこちらもお持ち帰り。シェフと畑を歩くと、たくさんの発見があって楽しみがつきません。
生産者の元を離れた食材はきれいに梱包され、私たち消費者の元に届きます。
その時、私たちの瞳に映るのは「値段と生産地」の書かれたシールだけ。その素材の生まれた景色や育てた人の想いが、いつの間にか削ぎ落とされてしまうことに慣れてはいけないなと感じました。
そして一行は、たくさんの野菜とハーブを抱えて、フィールドワーク1日目最後の生産者である細羽(ほそば)雅之さんの畑へ。
実は細羽さん、松野町・目黒地区の地域創生の立役者。
瀬戸内海エリアで7軒のホテルを経営し、2020年にはパンデミックのなか、松野町・滑床渓谷の国立公園内にあるホテルをリニューアルオープン。観光客のロングステイや新しい移住のあり方、自然のなかでの教育事業の提案など、人間らしい持続可能な生き方や社会を育む事業化精神を発揮しています。
自身も2021年に家族ごと松野町目黒地区に引越し、人口わずか270名、高齢化率は63,7%、スーパーもコンビニもない超限界集落で、持続可能なまちづくりの可能性を模索し、実行し続けています。
そんな細羽さんが育てているのは目黒米。
地球にとっても人の体にとってもより良い食をと、有機農法や自然栽培、合鴨農法など様々な農法に体当たりでチャレンジし、現在は不耕起栽培による土壌再生型農業に取り組んでいます。
この日は最終日のコース料理のメインにと、飼っている合鴨を分けていただきました。
合鴨を締めるにあたって、「水際のロッジ」のアクティビティマネージャーの森治彦さんにご指導いただきました。
お庭を散歩する鴨をみんなで追い込んで捕まえた後は、首を捻って気絶させ、頸動脈を切り、血を抜きます。
「なるべく鴨が苦しくないように、一気に頸動脈を切ってください。後は静かに血が抜け切るまで待ちましょう」。そう話しながら愛しむように鴨を抱き、最期まで静かに血を抜く森さんの背中に、命への敬意をありありと感じました。
合計5羽の鴨をみんなで力を合わせて締め、ぬるま湯で洗った後、熱湯をかけて一羽一羽丁寧に羽をむしります。無心に手を動かしながらも「ごめんね。美味しく食べるからね」という言葉が溢れてきました。
レストランで供されるお肉も元は一つの命。当たり前のものではなく、自然の恵が第一にあるということを再認識させられた体験でした。
夜はそのまま細羽さん宅のお庭をお借りして、海の幸のバーベキュー。
会場に赴くと、一人の侍(?)が竈と向き合っていました。
「皆様、お初にお目にかかりまする!BBQ城主の肉本龍馬と申すものでござる。今日は、我が松野藩(松野町)から白馬(車)で30分ほどのところにある、宇和海で採れた新鮮な魚介を使ったBBQを提供するでござる。よろ肉(にく)お願いするでござる!」。
この会を取り仕切ってくれたのは「バーベキュー侍・肉本龍馬」こと、沖野克成さん。松野町に足を運んでもらうきっかけの一つになればと、産地の食材を使ったバーベキューの体験事業を行っています。
「じゃこ天のアヒージョ」に「鯛とヒオウギ貝のアクアパッツァ」、「魚の藁焼きたたき」に「目黒米の窯焚きごはん」、「具材ごろごろクラムチャウダー」と、宇和海の新鮮な魚介をたっぷり使ったBBQ料理は、美味しいのはもちろん、沖野さんのキャラクターも相まって記憶に残る食体験に。
松野町のJR松丸駅前にある古民家でバーベキュー付きの民泊施設「BBQ城」を運営しながら、城外での活動もしている沖野さん。元々はお隣の大洲藩(大洲市)の出身だったが、松野藩(町)でのジビエとバーベキューを使った町おこしに出会い、「これならもっと子どもたちを喜ばせられるのでは…」「もっと目立った活動をすれば松野町をアピールできるのでは…」と、松野藩の侍になったのだそう。
「これから熱い鍋がそちらに参るので、皆気をつけるでござる!」
「皆、しっかり食べているでござるか?」
「おお、手伝ってくださるのか!かたじけない!」
侍による本格的なバーベキュー料理のおもてなしに、一同の語尾が「ござる」になったのは言うまでもありません。
舌に美味しい食事は世の中にたくさんあれど、この楽しい経験は松野町ならでは。
“美味しい体験”と“楽しい体験”の相乗効果で、忘れられない夜となりました。
1日目のフィールドワークで巡ったつくり手さんたち
北宇和郡松野町
●森の息吹/まつのジビエ(ジビエ)
施設長 森下孔明さん
●森の息吹/まつのジビエ(ジビエ)
施設長 森下孔明さん
●森の息吹/まつのジビエ(ジビエ)
施設長 森下孔明さん
泊まったところ
9月26日(火)開催
愛媛を旅したシェフたちによるスペシャルレストラン
「POP UP RESTAURANT 愛媛」
※撮影の際のみ、マスクを外していただいております。
※このフィールドワークは2022年11月下旬に実施されました。